前回のブログでは、情報の内容の検討方法について書きましたが、今回は他の要素を見てみます。
◇情報発信者は誰か
情報の発信源はとても大事です。医師であれば良いとは限りません。その分野の専門医であるか否かもとても大事です。標榜科目に皮膚科と書いてあっても皮膚科専門医とは限りません。ちなみに当院は皮膚科、アレルギー科、形成外科を標榜しております。私は皮膚科とアレルギー科の専門医を取得していますが、形成外科専門医ではありません。こういう見方ができれば、その医師の得意分野を推測することが出来ます。ちなみに各科の専門医になるには指定機関での診療実績と試験の突破が必要です。「〇〇学会会員」は、誰でもなれます。
また、情報発信元の組織で信頼性を量ることも出来ます。厚生労働省、保健所、公的な研究所、大きな病院などは専門性があり、信頼性は高いです。製薬会社や民間のクリニックは経済合理性が働いている可能性を考えましょう。
◇どこで発表された情報か
「Nature」や「Lancet」などの欧米一流医学雑紙と日本の週刊誌だと正確性や社会的責任性は前者のほうが圧倒的に高いです。医学雑誌にもいろいろあり、詳しく検証されずに単に学会で発表されただけで自動的に掲載される場合もありますが、これを一般的に見抜くのは困難です。
ちなみに、STAP細胞はNatureでしたが、あれは例外です。Natureでも騙されることがあるのです。
◇なぜ発信された情報なのか
発信者の意図を考えましょう。よく読むと、商品広告であることがよくあります。経済合理性が働くクリニックのウェブサイトでも起こりえます。
◇どのように伝えるか、どう受け止めるか
どのように伝えるかは受け止められ方を大きく左右します。危険を煽るような伝え方には注意しましょう。「〇〇は菌だらけ」などと危険を煽る広告で除菌グッズはよく売れますが、そもそも人間の体は菌(常在菌)だらけです。リスクを正しく認識し、情報を正しく読み取るためには自分の中にある「好き嫌い」を疑う必要があります。
人はだれでも、自分たちが好ましいと思うものに対するリスクは軽く感じられ、好ましくないと感じているものに対するリスクは重く感じる傾向があるようです。ステロイド剤の拒絶は危険を煽る広告で不安を持った方が、副作用の情報だけが頭に入って成立すると考えています。「好き嫌い」がかなりバイアスになっているようです。実際にステロイド剤を使いたくない患者さんに訊いていみると、そもそもステロイド剤が何であるかを知らない方がほとんどです。皮膚に外用する「ステロイド」とは、誰もが持っている副腎皮質ホルモンの1種であり、ホルモンとしては体内を巡って炎症を鎮める効果があるとお話すると驚かれます。外用したぐらいでは血中にはなかなか移行せず、ほとんど皮膚の炎症を鎮めるだけの作用です。情報を受け止める側もフラットで冷静な気持ちで情報を仕入れ、良し悪しを判断する必要があると言えるでしょう。
少しだけ脱線しますが、ガイドラインに書かれている推奨度の高い治療をバッサリ否定する医師がいます。当院の患者さんが通院している皮膚科以外のクリニックで、アトピー性皮膚炎の治療として最上位の推奨度を得ているプロトピック軟膏をまるで悪質なウェブサイトの論調のごとく否定する医師がいることを知ったときには愕然としました。その医師はあり得ない副作用を語り、恐怖を煽っていたようで、その患者さん(お子さん)の親御さんが相談にいらっしゃいました。その医師は勉強不足なのか、なんらかの経済的合理性が働いていたのかか不明ですが、そんなこともあるので、医師の言葉一つとっても、本当に正しいのかを判断することは容易ではないと言えます。こういう場合は複数の医師の意見を聞くと良いでしょう。
結局最後までまとまりがない話になってしまいましたが、医療情報が正しいかどうかは、色んな要素を意識して冷静に判断したほうが良いというのが紹介した本に書かれている結論です。とはいっても、具体的に何をしたらいいかわからない方が多いと思いますので、一つの情報源に頼らず、複数の信頼できる情報源を持つようにすることをおすすめします。身の回りの人の噂よりも、医師などの専門家の意見(なるべく複数)を参考にされるようにしてください。噂だけで間違った選択をして大きな後悔をしてしまう方は本当に少なくありませんのでご注意ください。